BLOG 血管は、体内の重要なインフラ

血管は、体内の重要なインフラ

2020.06.11

・そもそも血管とは

大きく、動脈・静脈・毛細血管と分けられます。

  • 動脈: 心臓から全身におくりだされる血液を運ぶ血管
  • 静脈: 全身から心臓に戻ってくる血液を運ぶ血管
  • 毛細血管:心臓からからだの末端にかけて網の目のように広がっている血管。血管の95%を占め、各組織において動脈と静脈を連結し、組織と血液の間で物質交換を行う。血液の一部の成分は、毛細血管を流れる間に血管外に滲みだして組織間隙を満たす組織(リンパ)液となる。組織液の大部分は再び毛細血管や細静脈から血管内に戻る。

この全身をめぐっている血管ですが、極小の毛細血管まで含めると、その長さは、10万キロメートルになる(!?) と、いわれています。これは地球2周半にもなります。毛細血管はそのうち95%を占めるそうです。

出典:illustAC様


・ん?血管の長さが10万キロメートル?

人間のからだの細胞の数は推定60兆個程度存在するとされていましたが、イタリアの生物学者により、2013年に発表された学会誌『Annals of Human Biology』に掲載された学術論文「人体の細胞数の推定」では、文献・数値的な統計計算により、標準的な成人のからだの論理細胞数を37兆2000億個と算出・推定されています。以前よりだいぶ根拠のある数字となったようです。

出典:”An estimation of the number of cells in the human body” Annals of Human Biology Volume 40, 2013-Issue 6

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/03014460.2013.807878

もしかしたら、この血管の長さ10万キロ、というのも容易に変わるのかもしれません。お世話になっているお医者さまが、「医学界の常識はある日突然覆されるんだよね」とお話しされておりました。科学の進歩により、生物学・医学の常識は日進月歩で更新されていくようです。


ちなみに血流(脈動に合わせる流れ)速度については、血管の場所によっては様々で、以下のような目安が示されています。

  • 大動脈: 流速40cm/秒
  • 大静脈: 流速15cm/秒
  • 毛細血管: 流速 0.03cm/秒

出典:Gerard J. Tortora, Bryan Derrickson (2012). “TheCardiovascular System: Blood Vessels and Hemodynamics”. Principles of Anatomy & Physiology, 13th. John Wiley & Sons, Inc.. p. 816.

ISBN 978-0470-56510-0



・血管の構造について

血管は主に三層構造となっています。

内膜(内層):

血管の内表面を構成する扁平な薄い細胞の層で、血液の循環する内腔と接しており、この細胞は、心臓から毛細血管までのすべの循環器系の内壁に並んでいます。

血管壁の収縮・弛緩(血管の硬さ・やわらかさ)をはじめとして、血管壁への炎症細胞の接着、血管透過性、凝固・線溶系の調節を行います。※毛細血管は、この内膜のみでできています。


中膜(中層):

輪走する平滑筋細胞弾性線維(コラーゲン繊維とエラスチン繊維)から形成されており、太い動脈ほどよく発達しており、血管に柔軟性・弾力性を持たせるために必要な構造となっています。

動脈とちがい、静脈は高い圧力を受けることがないため、この中膜が薄くなっている代わりに、内腔に逆止弁(半月弁)が存在しています。


外膜(外層):

中膜外側にある、被膜状の疎性結合組織であり、コラーゲン繊維がまばらに不規則な結合をしており、外側の境はありません。

このような「疎性結合組織」は、乾漆・血管・リンパ管・神経の周囲に広くみら、コラーゲン繊維よりも細胞性成分の多い層となっています。


コラーゲンは、中膜(層)・外膜(層)に存在して、血管に柔軟性と弾力をつけ、血液を送り出すこと、血管自体を保護することをその役割としています。



血液は、細胞成分(赤血球・白血球・血小板)と血漿(各種電解質・有機物水溶液 約91.5%は水、7%はタンパク質となっています)でできており、栄養・酸素・情報・メンテナンス機能を全身に巡らせ、老廃物・二酸化炭素などを回収して各臓器へ運んでいます。

このように生命維持に必要な血液が、前述した血管の中を常に流れています。血管は重要なインフラであり、生命線なのです。



・インフラはとても大事。経済もヒトのからだも

話は変わりますが、私たちが暮らしている社会において、経済活動は、人・モノ・お金・情報などの行き来で成り立っており、さまざまなインフラ(この場合は金融・流通・情報システム等になりますが)が支えています。このインフラのいずれかでも滞りが出てしまうと、経済活動に大変な影響が生じてしまうことは、地震・大雨による災害や、今回の新型コロナウイルス禍による各種自粛・制限などの状況でも実感させられてしまいます。個人的には、経済の仕組みと、血管(循環器)を通じたからだの機能は、似ているものがあるなと考えるのですが、いかがでしょう?

人のからだも同じように、さまざまな役割をもった血液を滞りなく全身へ循環させるインフラ・血管やくまなく張り巡らされた神経系によって実現しています。血管に大きな影響が生じるとどうなるでしょうか…。



・いまだに日本人の死因の上位を占める血管系のトラブル

今でも日本人の死因トップは「悪性新生物(腫瘍)」第二位に「心疾患(高血圧性を除く)」第四位に「脳血管疾患」となっており、血管に由来している病気による死因が上位に来ています。


 ・心疾患とは

「心疾患(高血圧性を除く)」は、その大半が「虚血性心疾患」といわれるもので、心臓の筋肉へ血液を送る冠動脈の血流が悪くなり、心筋が酸素不足・栄養不足に陥るもので、「狭心症」「心筋梗塞」の2種に分けられます。

いずれにせよ、心疾患は心臓に生じる病気で、心臓の停止はひとの「死」そのものです。


 ・脳血管疾患とは

また「脳血管疾患」は、脳の血管のトラブルによって脳細胞が破壊される病気の総称で、おもに「出血性」と「虚血性」の2種があり「脳卒中」とも呼ばれています。脳はご存知のように、行動や言動、思考や感情、感覚をはじめ、心臓の拍動・呼吸・体温調整などといった生命活動をつかさどる脳細胞が情報網を張り巡らして機能を果たしています。

この「脳血管疾患」は、「突然死」を招く恐ろしい病気で、かつ一命をとりとめても、手足の麻痺や、言語・視覚・感覚などの障害、寝たきりなどの深刻な後遺症を残すことが多い病気です。



日本人の主要死因となっている「心疾患」「脳血管疾患」のどちらも、大半は動脈硬化による血栓や血流不足、結手や血栓などの血管由来が原因です。次回は動脈硬化についてと、コラーゲンの関与について記載したいと思います。



<< 前頁Cinquis Blog:(None) >>




※日本人の主な死因について

日本人の死因第一位は「悪性新生物(腫瘍)」第二位は「心疾患(高血圧性を除く)」第三位は「老衰となっています。(2019年※)

えっ?老衰ですか?とおもわれた方もいらっしゃるかと思います。第三位~第五位は近年で変動を見せており、2016年まで第三位だった「肺炎」※は、2019年の統計で第五位に、2017年に第三位となった「脳血管疾患」は2019年の統計で第四位に、2018年以降の第三位は「老衰」となっています。

これは、2017年に日本呼吸器学会が出した「成人肺炎診療ガイドライン」に大きく方針転換があり、その大きな変化としては、「繰り返す誤嚥性肺炎や終末期の肺炎などに対して、個人の意思やQOLを尊重した治療・ケアを行うよう指針を示した」ということです。

この指針から、「患者の希望によっては積極的な治療を行うことをせず、無理のない最後を迎えてもらう」という内容となったことで、前述の肺炎でなくなった患者さんの死亡診断書には「肺炎」ではなく、「老衰」と書くお医者さまが急激に増えた、ということのようです。

学会でこのような変化が起きていたことに正直、驚きました。


出典:厚生労働省:令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai19/index.html

出典:日経メディカル/【詳報】成人肺炎診療ガイドライン2017発表 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201704/551082.html



過去のブログ